卓球界のアイドル「愛ちゃん」こと福原愛(32)の離婚後初めてのインタビューは、なんと中国メディアから発信された中国語による「こんな私をいつでも応援してくれる中国の皆さんに感謝です」という、なんともビミョーなものだった。これは中国卓球界へのアピールなのか? 台湾での反応も含めて、愛ちゃんの中国語インタビューの意味を考えてみた。 【写真】福原愛と離婚した台湾人卓球選手・江宏傑
解説としての能力に疑問符
東京オリンピックの卓球種目で日本は混合ダブルスで金、団体女子で銀、団体男子で銅、伊藤美誠(20)が女子シングルスで銅メダルを獲得。まさに日本卓球の面目躍如で、若い張本智和(18)、ベテラン水谷隼(32)の活躍に代表されるように、チームワークと層の厚さが話題となった。 ただ、台湾在住の日本人である筆者が気になったのは、「解説の福原愛はそれほど目立った印象がなかったな。試合の現場にも映り込んでいないし」という点である。なにしろ、台湾での結婚生活を棄てて本格的に日本復帰、メダリストとしての知名度をフルに活用して新生活を始めた福原にとって、最大のヒノキ舞台がこの東京オリンピックだったはずである。「その気概や如何に?」と期待していたものの、それは失望に変わった。 まず福原は、フジテレビ系で解説陣に加わっていた際に、思いっきり滑ってくれた。伊藤・水谷コンビが混合ダブルスで金メダルを決めた瞬間、司会者が振った「2人に聞きたいことはありますか?」との問いに福原は「え? 何もありません」とオトボケをかましたのだ。司会者もこの反応には「え? ないんですか?」と動揺していた。 試合に対してもそれほどキレのあるコメントを出すわけでもなく、凡庸な受け答えに始終する福原。どうやら彼女はリオ終了後の5年間、台湾での新婚生活、選手引退後のタレント生活を経て、輝きを失ってしまったかのように見えた。 それを鮮明に感じたのは、NHKのスタジオレポーターとして登場した平野早矢香(36)や、女子卓球の試合で、臨場感のある的確な状況説明もできる藤井寛子(38)とは、あまりにも対照的だったからだ。 特に、愛ちゃんとそれほど歳が離れていない平野との差は歴然だった。平野はここ数年、スポーツ系タレントとして、テレビ東京系の「卓球ジャパン!」でユーモアに富んだ試合解説をこなすなど、卓球の現場をじっくりと腰を据えて見守っていた。片や、台湾で元夫とCM出演、ラブラブ番組出演などに時間を費やしていた福原。この差は大きかったのではないか。
「生きてこられたのは中国のおかげ」
さらに驚いたのは、オリンピック終了を前にして突如、福原が離婚後初めての取材を中国メディアから受けたことだ。 8月5日、東京都内ホテル内。上海メディアグループ傘下のネットメディア看看新聞の東京特派員の宋看看(女性記者)の単独取材に応じた福原は、ブラウンのワンピース姿で登場。慣れ親しんだ東北地方アクセントのある北京語で話し始めた。 まずは伊藤美誠の卓球への評価など、競技に関する話題。しかし、「日本と中国のどちらを応援するか」という質問については、 「混合ダブルス決勝に出場していた劉詩雯は特に仲良しだから応援したい反面、日本にも金メダルをとってほしいし、気持ちが揺らいだ。でも、日本に負けた時も劉詩雯をねぎらったし、彼女が個人戦に出られなかったことにも同情した。その点、5日の女子団体戦決勝は劉詩雯が出場しないから、それほどの葛藤はなかった」 と中国側に最大限に配慮した完璧な回答。だが、こんな発言をもし日本のオリンピック特番でしていたら、炎上は免れなかっただろう。仮に団体戦に劉が出ていたら、自分の後輩である石川佳純・伊藤・平野美宇らを全力で応援できなかったと言っているに等しいからだ。また、「自分の母は練習に厳しかったけど、子供たちに教える根性はなく、自然に任せる」など、離婚前まで台湾で同居していた母親への言及もあった。ただし、元夫のことには決して触れない。 「どうしてあなたは中国で人気があるのか」と聞かれた際は、デレっとした口調で、 「背が低くて丸々しているからでしょう? 中国人は色白ぽっちゃりが好きだから」 と自己の容姿に言及した上で、中国のファンがどのくらいの熱意を持って自分を応援してくれているかを述べた後、やや涙目になり、 「中国の方はいつも私を支えてくれた。一時期(離婚騒ぎのことか? )とても辛かった。けど、どのような私であってもすべて受け入れてくれました。こう言うのは大げさかもしれないけれど、今日まで生きてこられたのは中国の皆さんの支持のおかげ。感謝です」 と中国人民への愛を語り、恩返しを誓ったのである。
支払う対価も大きい
電撃離婚宣言の衝撃がまだ醒めやらぬ時期のこのインタビューである。驚いたのは日本人だけではなかった。まず台湾のメディアが黙っているわけがない。台湾を代表するメディアの自由時報は「中国人のおかげで生きてこられたと話す福原愛は、台湾に我が子がいることを忘れているのだろうか? これは明らかなレッドカードだ」と手厳しい。ネットニュースでも「生きてこられたのは中国人の支持のおかげ」発言が強調され一斉に報じられた。もちろん批判的なコメントが多数を占めている。 ただ、Yahoo! 台湾のニュースで「福原愛は中国に極度の忠誠を誓い、中国に魂を売った。だが、いつものように流暢な東北訛りの北京語で、しっかり中国人民に声を届けた彼女は、大きな支持を取り付け、中国での仕事にありつけるだろう」と皮肉混じりに解説されるように、いまや福原にとっては台湾より中国のほうが遥かに大切なのだろう。不倫騒動の末の離婚、さらには母国開催のオリンピックでの精彩を欠いた解説。今後、日本や台湾で積極的に福原を起用するメディアやスポンサーがいるとも思えない。そう考えれば、全力で中国に媚びるという彼女の選択は間違いではないかもしれない。 インタビューが配信された6日夜、台湾の民視TVの討論番組でも、「福原は親中というレベルではない、媚びるほどの態度をインタビューでとっていた。離婚騒ぎで日本でも人気低迷なことも受けて、作戦を変えてきたようだ」と分析されていた。とはいえ、討論の中でひとりの台湾人がこう話したことも付け加えておきたい。 「中国に近づいて甘い汁を吸うのは一向に構わない。けれど恩恵が大きい分、支払う代価も大きいことを忘れてはいけない」 経済面では中国との交易に大きく依存しながら、政治的には長年、中国からの露骨な嫌がらせを耐え忍んできた台湾人は、かの国の恐ろしさをよく知っている。一度でも機嫌を損ねれば、徹底的に相手を貶めるのが中国のやり方である。台湾と決別した途端、すばやく中国と関係修復を図る福原が、そこまで深く考えているかわからないが……。 広橋賢蔵(ひろはし・けんぞう) 台湾在住ライター。台湾観光案内ブログ『歩く台北』編集者。近著に『台湾の秘湯迷走旅』(双葉文庫)など デイリー新潮取材班編集 2021年8月8日 掲載