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西側諸国は2月25日、ロシアのウクライナ侵攻への制裁として、ウラジーミル・プーチン大統領の個人資産を凍結すると発表した。しかし、プーチンの莫大な資産を欧米政府がどこまで把握しているかは不明だ。 【動画】噂の「プーチン宮殿」の豪華絢爛ぶり! 事実、プーチンが所有する財産やそれらがどこにあるかについては、ほとんど知られていない。長らく噂や憶測が飛び交ってきたものの、取り巻きたちの口座に数十億ドル単位で移したり、家族名義で高級不動産を所有するなど、その富の実態は不透明なままだ。 プーチンの資産公開記録によれば、年収は14万ドルで、小さなマンションを所有していることがわかっている。だがこれはあくまで公式記録による表向きの数字であり、以下のような「隠し財産」は含まれていない。 まずは黒海沿岸のリゾート地にある通称「プーチンの宮殿」。10億ドル相当と推定されるこの豪邸は、プーチンの所有にはなっていないものの、さまざまな形でプーチン政権とつながりがあることがわかっている。 「プーチンのヨット」と呼ばれる1億ドルの高級クルーズ船もある。この船はドイツで改修が行われていたが、ウクライナ侵攻が始まる数週間前にロシアへ移動された。 それからモナコには、プーチンの愛人と伝えられる女性がオフショア企業を介して購入した410万ドルの大邸宅があり、南仏にはプーチンの元妻が所有する高級ヴィラがある。 アメリカやその同盟国にとって厄介なのは、これらの資産がいずれもプーチンと直接にはつながっていないことだ。
実効性よりも象徴的な意味合いが強い
西側諸国はこれまで「プーチンの代理」になっていると思われる人物たちへの制裁に焦点を当て、それがプーチンに対する圧力になることを期待してきた。ロシアが2014年にクリミアを併合して以降、プーチンに近いオルガルヒ(新興財閥)たちを狙って科してきたものだ。 そのリストには、娘の元夫でロシア石油化学企業の筆頭株主であるキリル・シャマロフ、建設業界の大物ボリス・ローテンベルク、ロシア6番目の富豪とされるゲンナジー・ティムチェンコなどが名を連ねる。 今回発表された追加制裁でも、こうしたプーチンの取り巻きたちが引き続きターゲットにされ、彼らがその資産にアクセスすることや欧米で金融取引を行うことが不可能になるはずだ。 だが過去10年近く経済制裁のなかで生きてきたロシアのエリート層は、迷路のように入り組んだあの手この手を使って財産を隠し、うまく逃れることに慣れている。彼らの策略が表沙汰になるのは、オフショアの弁護士事務所や秘密主義の銀行からのリークがあった時くらいだ。 ロシアに対する経済制裁で米議会に助言をしているポール・マサロは、米政府は必ずしもどの資産に打撃を与えられているかを把握していないと指摘する。 「つまり、私たちがこうした個人を対象に科している制裁は、見せかけのプレスリリースとしての意味合いが強いということです。どんな資産があるかを知らずに凍結することはできませんから」 ただ、米政府がプーチンの資産の一部しか把握していないとしても、制裁する価値はあると、マサロはつけ加える。「わかっている部分だけでも凍結し、彼らは私たちのシステムに歓迎されていないのだと、世界に周知する意味はあります」 欧州のある外交官も、資産凍結は「政治的に重要なメッセージ」を送ることになると語り、象徴的な価値はあると強調する。
もしかしてプーチンは世界一の富豪?
プーチンの隠し財産は一体どれほどのものなのかについては諸説ある。 最も衝撃的な推定は、アメリカ生まれの投資家で、2005年にオリガルヒと衝突して以降ロシアに入国禁止になっているビル・ブラウダーによるものだ。彼は2017年に米議会で、プーチンの資産総額は2000億ドルに達していると証言した。これが本当なら、プーチンは当時で世界一の富豪だったことになる。 一方、2019年に『プーチンの縁故資本主義』を上梓したアンダース・アスランドは、1250億ドルと見積もる。その大半は、オフショアの複雑なネットワークの中で、プーチンの盟友や親族が隠し持っているものだという。 だが米シンクタンク「ハドソン研究所」のネイト・シブリーに言わせれば、「すべてを支配している」独裁者プーチンに莫大な財産など必要ない。 「人々は、彼があれもこれも持っていると言うけれど、それは何を意味するのか? 彼がその資産を現金化して、サントロペ(フランスのリゾート地)で引退生活に入るとでも思っているのでしょうか?」 あのプーチンがそんな簡単に引きこもるとは考えにくい。