韓国に漂う反日の空気
安倍晋三元首相が銃撃されたニュースは、韓国でも日本とそう変わらないスピードで伝えられた。が、反応はまったく異なる。一報に接した韓国人の中には、ウェブで容疑者のことを「愛国者」「立派な市民」などと英雄視する一方、安倍元首相に対しては「悪いことをして罰を受けた」などといった反応をする者が少なくなかったのだ。ネット記事につくコメントから韓国に漂う反日の空気を探ってみたい。 (以下、紹介する常軌を逸したコメントには、気分が悪くなる方もいるかもしれないので、その点はご注意のうえお読みください) 【写真】36年前行われた、安倍晋三元首相の「合同結婚披露宴」
YTN(韓国の24時間ニュースチャンネル)が報じた「速報:日本の安倍元首相が遊説中に銃撃を受けて倒れる」というタイトルのニュースには、事件当日、7月8日午後3時の時点で、数千のコメントが書き込まれた。速報が与えた衝撃の大きさを物語る数字だ。このうち支持を得たコメントを並べてみると、以下の通りである。 「アベが死んだらダメだよ。安倍元首相がいてこそ日本はいつもそのままでいられるのに」(注:安倍元首相はこれまで同様、日本を誤った道に導くリーダーだ、と言いたい) 「日本にあんな立派な英雄(注:犯人のこと)がいらっしゃるとは。わが国もあんな英雄が必要だ」 「日本の政治にあんなに関心のある人(注:犯人)がいるという事実に驚いた」 「世の中はまだ生きがいがあるようだ。胸が温まるお知らせ!」
「全国民と共に祝う」
もう少し紹介を続けると、 「伊藤博文みたいに狙撃されたんだ! 日本人にも愛国者がいるなんて、その人に英雄の称号を与えたい!」 「全国民と共に祝う。決行した義人(=正義の人、犯人のこと)に感謝を申し上げます」 「安倍首相は韓国に対し悪いことをたくさんした。人間は悪徳を積むと誰もがその報いを必ず受ける」 「日本人が覚醒しているのか? 行動に出る愛国者がいるなんてうらやましい」 といったような具合で、あたかも憎き悪の権化になぞらえられた安倍氏が天誅でもされたかのようだ。 続いて、KBS(韓国放送公社)の「安倍元首相が遊説中に銃で撃たれて……心肺停止状態」というニュースにも、午後3時の段階でこちらも数千の書き込みがあった。具体的に見ていくと、 「どうかご無事で、今後も日本のために働いてください。逝く時には国民、全部連れて逝ってください」 「最後まで生き残って日本を駄目にしなければならないのに死んではいけません。安倍元首相、どうか日本を導いてください」 「もっと長生きして日本を今よりもっと引き上げなければならないのに、やるべきことがまだたくさん残っているのに、こんな形で途中下車したら残っている日本人はどうしろと……」(注:嫌味を込めている) 「安倍首相は日本の敗北のためにまだやることがあるはずなのに……生き残れることを願っています」 「日本の発展の妨げになる人物が亡くなるなんてとても残念だ。故人のご冥福を祈ります」 「日本にも勇敢な市民(注:犯人)がいらっしゃったんですね」 まだ亡くなっていない状況であるにもかかわらず、ご冥福を祈りますなどといった不謹慎な言葉も数多く見られる。
「私の口元に微笑み100%」
そして、MBC(文化放送、公営)の「安倍元首相、演説途中に撃たれ血を流して倒れる……」というニュースにも午後3時時点で、これまで紹介したメディアと同レベルの書き込みがあった。人気を集めたコメントは以下の通りである。 「哀悼します。安倍首相は韓国のために日本を滅ぼした愛国者です。長生きして日本を完全に滅ぼせる惜しい人材だったのに、とても悲しいです」 「犯人が誰なのか分からないけど応援する」 「心配0%、心配0%、もどかしさ0%、私の口元に微笑み100%」 「また関東大震災の時のように韓国人が撃ったと大騒ぎになりますね」 「あんな勇敢な日本人(注:犯人)がいるなんて……。韓国にはあんな義人がいないの?」 さらに聯合ニュースの「安倍元首相、遊説中に散弾銃で撃たれて……心肺停止状態」というニュースにも、次のようなコメントが並んでいる。 「悪党たちの末路は皆ああだ。神の意思だ。悪いことばかりしていたから自国民によって殺されたね」 「韓国にもこんな良いニュースが溢れることを期待しています」 「死んではいけない。日本を完全に台無しにするのに適した者なのにこんなにむなしく逝くなんて」 「平和憲法の改憲を遊説現場で口にしたが、罰を受けたようだ」 「日本人は政治に無関心だと思ったが、犯人は勇敢だな」
銃を撃った犯人は
さらにJTBC(韓国の左派的TV)の「速報、安倍元首相の銃撃犯は41歳の男性、殺人の疑いで逮捕」というニュースでは、次のように容疑者を礼賛するコメントが多数集まっていた。 「41歳? 本当に立派な人だね~。このようにあっと驚くようなことをしてこそ歴史に名前が残る。尊敬する」 「国家のために犯人はこの若さで献身するなんて……」 「彼(犯人)は英雄だ」 「すごい勇気に拍手をします」 その後、午後5時3分に安倍元首相の死去が確認されて以降、関連記事は配信され続けたが、哀悼の言葉や生前の功績を評価するようなコメントはほぼ見当たらない。 人気を集めるのは、「伊藤博文を尊敬するといい、慰安婦、独島などで韓国を傷つけたこのような人間は早く黄泉の道に行け」とか、「今回の一件は、戦争犯罪を反省できないアジアのヒトラーを断罪しただけだ。銃を撃った犯人は真の義人である。犯人は日本に平和をもたらした。日本が全体主義独裁国家から真の民主主義国家に戻る契機になることを願う」といった内容のものばかりだった。
他方、保守系の朝鮮日報が死亡を伝えた記事には「ご冥福を祈ります。残念ですね」とのコメントがあり、それなりに支持を集めていた。しかし、このコメント自体に噛みついて「冥福? 冥福まで祈る必要はないのでは? 韓国に対して貿易面での報復をし、慰安婦関連の妄言を数え切れないほど行い、靖国参拝も頻繁に行ったのだから」などとツッコミを入れる者もいた。 もちろん、ネットのコメントだけで世論を推し量ることには限界がある。日本においても不謹慎なコメント、非人間的なコメントを匿名で書く人は一定数いる。ただし、このような形で殺人事件を肯定するようなコメントは少ないだろうし、そこに「いいね」と共感する人も少ないだろう。 もちろん、言論の自由の観点からすれば、どんなコメントを書こうが、それに支持を示そうが自由ではある。 とはいえ、匿名で綴られた安倍氏批判のコメントにここまでの「いいね」がつく状況は、反日の根深さを改めて感じさせたと言えるだろう。こういうコメントを平然とする人がリアルな韓国社会では少数派であればいいのだが……。