中でも東京・元赤坂の迎賓館に招くという国賓級のおもてなしで迎えたのは、新型コロナウイルスワクチンを世界に供給する米製薬大手ファイザーのブーラCEOだ。 ブーラ氏はIOC(国際オリンピック委員会)にワクチンを無償提供したことなどから、開会式に出席。菅首相は23日昼、河野太郎ワクチン担当相も同席した上で、10月以降に予定している供給分の前倒しを要請したとされる。その会談はどのようなものだったのか。政府関係者がこう明かす。 「官邸ではなく迎賓館でランチを取りながらのおもてなし会談で、国賓級の扱いでした。官邸が会談前から盛んにメディアに会談について吹聴していたので『ワクチン前倒し供給を要請』のニュースが一斉に報じられましたが、実質は『選手団に対する4万人分のワクチン無償支援』に対する首相からの御礼と例の不毛な『安全安心な大会への決意』を述べたことが、メインでした。日本のコロナ感染状況などのレクもブーラ氏にしていました」 では、肝心の「ワクチン供給前倒し」の結果はどうなったのか? 「菅首相から言及はしたものの、『引き続き実務担当者同士で』と軽くあしらわれたと聞いています。菅首相、河野大臣の2人がかりでブーラ氏と交渉し、何をやっているのか、と失望の声が官邸から出ています。ファイザーに足元をみられているということでしょう」(同前) 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、ワクチン供給も一部の自治外で滞る中、政府や自民党内では「そもそも野党のせいだ」という声が相次いでいる。 こうした声に反応した立憲民主党は、公式Twitterで「ワクチン遅れたのは野党のせい?」としてQA式のツイートを7月16日に連投し、「違います。政府の責任です」などと持論を展開した。
だが、野党はこれまで国会で何をしてきたのかについては改めて検証してみる必要がある。 AERAdot.で「菅首相は戦犯に間違いないが、立憲、共産党もポンコツ過ぎたワクチン国会」(6月17日付)と報じたとおり、立憲や共産党がワクチンの国内治験にこだわり、欧米各国で行われていたワクチンの緊急使用に猛反対したことが接種の遅れにつながっていることは既に知られているところだ。 「ワクチン交渉は非公表なのでこれまで報じられていませんが、実は立憲民主党所属議員の軽率な国会での言動がファイザーの怒りを買い、ワクチン供給の遅れに一役買ったという重い事実があるのです」(官邸周辺者) 問題となったのは、立憲民主党・柚木道義衆院議員が今年2月12日の衆議院予算委員会での以下の発言だという。 「ワクチン確保が後手後手に回ってきてるんじゃないかと指摘もある中で、私はぜひ、3社以外でロシア製ワクチン、中国製ワクチンも含めて確保に努めるべき」 当時、政府はファイザーと供給量や時期を巡りギリギリの交渉や駆け引きを行っていたという。 「この国会発言を知ったファイザー幹部は激怒。『我々のワクチンは世界が求めているものだ。日本以外に求めているところはいくらでもある』『国会という公式の場で、中国やロシアから供給を受けるなどという議論がなされているのであれば、日本の態度は理解した』として態度を硬化してしまったのです。難しい交渉が一層紛糾し、供給の遅れに繋がったという経緯があります」(同前) 仮にも柚木衆院議員が提案したとおりに中国製やロシア製ワクチンを確保できたとして、成果は出たかは、甚だ怪しいだろう。中国製ワクチンはデルタ株には有効性が低下するとされ、またロシア製ワクチンはEUでもまだ承認されていない状態だ。仮に確保しても日本国内ではほとんど活用できないということになりかねない。結局、野党の国会提案がワクチン確保の足を大いに引っ張ることとなったというのだ。
さらに立憲民主党政調会長代行の川内博史衆院議員が21日、自身のツイッターに「陛下が開会式で『大会の中止』を宣言されるしか、最早止める手立ては無い」と投稿。「天皇の政治利用」という批判が相次ぎ、投稿はその後、削除された。 「政府も政府だが、立憲の国会議員の言動も軽すぎる」(野党の衆院議員) 五輪開催後も連日、選手村などから感染者が出ており、東京都内の感染者は1000人超えが続いている。 大会組織委員会で感染症対策にあたる専門家の円卓会議で座長を務める岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は、朝日新聞の取材に対し、「新型コロナウイルス感染が拡大し、『第4波』に見舞われた際の大阪府のように、東京都で入院すべき人が入院できないような状況になったら大会の中止も考えるべきだ」などと訴えている。 政治のせいでワクチンという「ゲームチェンジャー」の確保が中途半端なまま、東京五輪を強行したツケがこれ以上、国民に回ってこないことを祈るばかりだ。(AERAdot.取材班)